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災害時に必要になることを、平時から準備しておくべき
起こりうる災害をどう考え、建設業として何をすべきなのか、
災害対応時の取組へのご指導をいただいてきた名古屋大学の中の教授と東北大学の風間教授からお話を伺いました。
中野 正樹NAKANO MASAKI
博士(工学)
名古屋大学 教授
大学院工学研究科 土木工学専攻
風間 基樹KAZAMA MOTOKI
博士(工学)
東北大学 教授
大学院工学研究科 土木工学専攻
大塚(インタビューアー) 今後起こり得る災害ということで、首都圏直下、あるいは南海トラフ、火山噴火もあると思います。このような災害について、どのようなお考え、想いをお聞かせください。
中野教授 特に南海トラフ巨大地震は東海圏や名古屋を直撃しますので、名古屋大学や名大土木教室はその対応のための研究をして、この地域に貢献しなくてはなりません。また地盤工学会中部支部においても2014年から南海トラフ巨大地震に備えて研究委員会を立ち上げました。
3つのワーキンググループの1つに、中部圏での災害廃棄物の処理に関するワーキンググループがあり、委員長として災害廃棄物処理に関して取り組んできました。特に三重県四日市市には石油コンビナートがあり、化学系を含む災害廃棄物が出てくる可能性がある。それをどううまく処理するのか、どう有効活用していくのかを真剣に考えるべく研究を進めました。東海圏の被害を低減させることも重要ですが、被災後に復旧や復興を如何に上手にやるかということ、つまり災害廃棄物等の迅速で適切な処理・利活用のシステムを、しっかりと考え作り上げてゆかなくてはならないと思います。
大塚(インタビューアー) これまで先生には災害現場に来てもらい、ご意見を頂くことがありました。先生のような客観視的に現場を見てもらうことで、全体最適化につながる。そんなご助言をいただけたのではないかと思います。
大塚(インタビューアー) 東日本大震災からもうすぐ11年となりますが、発災の時、またはそれ以降で、風間先生はどういう問題に取り組んだのか、先生が取り組まれていることを少しご紹介していただけませんか?
風間教授 東日本大震災を契機に、防災・減災・復旧技術などについては色々なニーズが出ています。地盤工学分野では、宅地耐震や液状化に関連したニーズがあります。震災廃棄物(ガレキ)処理に関しても、技術的課題やニーズは建設業の皆さんも認識されたと思います。ただし、災害が起こって、その技術が必要だからといって、新しい技術を直ぐに使えるわけではありません。また、新技術を今までの技術の延長線上でやったのでは抜本的な技術革新はできません。ですから、直後にすぐ使わなければいけない応急復旧技術は、既存の技術の援用でやらなくてはならない面もあります。しかし10年以上経った時点では、もう一度新たに考えて、もっとこうした方がいいという話があって然るべきと思います。しかし、目の前の災害がなくなると、残念ながらその意識は薄れてきます。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる。」ですね。逆に、大津波が来た直後にすぐにまた大津波が来る恐怖を感じて「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」的な対応もある。人間の性かもしれません。研究として、これまでと違う考え方でやりたいと思っていることは、液状化です。今までは、液状化が起こった時に、地中からの噴砂をもって液状化の証拠としていました。しかし、地上に噴砂が無くても、地中で液状化が起こったかもしれないです。また、地上で噴砂が確認されても、地中のどの深さで、どの程度の液状化があったのか一切わかりません。つまり、結局のところ、どの地点でどの程度の範囲で、どの程度の液状化現象が生じたのかが捉えられていないわけです。正解が突き詰められないわけです。
この点を考える上では、最近のIoT社会の趨勢に注目しています。MEMS技術(Micro Electro Mechanical Systems)という20年くらい前から始まっている技術でセンサーは小型化・低廉化が進んでいます。センサーが安く、どんなものにもつけられるようになってきています。それを使うと質の良いデータが沢山取れます。ビックデータを分析すれば、AIでこれまでと全く違う答えを導き出すことができます。さらにそれらがネットワークに繋がって、これまでと違うイノベーションの波が起こるのではと期待しています。
大塚(インタビューアー) 今後、起こり得ると危惧されている巨大災害に対して、どういう準備だとか検討だとか、先生の個人的なお考え、あるいは社会動向などでご存知のことがあればお伺いしたいのですが。
風間教授
やはり、災害には備えることが重要と思います。備えがなかったから災害になるので、事前にやっておくべきことが殆どです。しかし、それでも起こってしまった時は緊急対応という話と、少し経ってから応急復旧・本復旧するというフェーズがあって、それぞれのフェーズでやるべきことは違ってきます。ハードよりソフトというようなことを言う人もいますが、ハード面が壊れなければ被害にもならないし、被害を受けなければその人が逆に助ける側に回れるので、そこのラインをいかに上げるかは非常に重要であることは皆さん分かっていると思います。
しかし、防災とか減災に対する投資は、時間がかかりますし、目に見えて利益を生まないので、社会全体としてそこに継続的に投資をすることが、今まであんまりできてないかもしれないですね。40代以上の方は、阪神淡路大震災や東日本大震災を経験しています。企業も企業BCPの話で、ロジスティック、物流、部品調達などが自然災害のみならず課題として認識されています。
大塚(インタビューアー) 各種の災害に対して建設会社や建設業界、あるいは土木部門といった部門での研究者に対して、取り組んで欲しいことや取り組むべきものがあればご教授頂けますか。
風間教授
災害復旧の場面では、いろいろな仕事が出てきます。その仕事は、普段の仕事にはなくて、災害が発生したから出た仕事です。そのような仕事を平時から生業としてやっている業者はないと思います。
災害によって発生した仕事に対して、ゼネコンさんは社会に大きく貢献しました。会社の常時の事業にはなじまないかもしれませんが、災害が起こった時に、社会が迅速に対応できるポテンシャルを日頃から作っておくという視点は必要と思います。
一方、そうした準備は、普段の営利目的の事業活動にはなじまないので、本来、社会的コストとして公が負担するべきだと思います。
大塚(インタビューアー) 通常の社会生活の中で事業として成り立っているもの以外のことが、災害が起こるとありますよということですね。特に初動対応や復旧事業などもそうですね。そのときに、平時では使わないが、災害時には必要になる技術だとか、対応可能な人材だとか、そういったものを、各種の資機材も含めて準備できていれば、そうした活動を国が支援をしていただきながら実施する、例えば建設会社とかそういったところと連携ができて、迅速・円滑な対応ができればいいということですね。