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先を見据えたインフラ整備、大事なのは人と現場
奥村組東日本伝承プロジェクトのリーダーである大塚が、
恩師であり災害対応の取り組みへのご指導をいただいてきた京都大学の嘉門名誉教授・勝見教授から、
「これからの災害」をテーマにお話しを伺いました。
嘉門 雅史KAMON MASASHI
博士(工学)
京都大学 名誉教授
(一社)環境地盤工学 研究所 理事長
勝見 武KATSUMI TAKESHI
博士(工学)
京都大学 教授
(京都大学大学院 地球環境学堂 社会基盤親和技術論分野)
大塚(インタビューアー) 過去を振り返りつつ、来るべき災害へ私たちはどのように備えるべきだとお考えでしょうか。
嘉門名誉教授 激甚化する災害への対応として災害多発時代の防災・減災のあり方について話をしたいと考えます。ご承知のように気候変動が進み、地球も変動期を迎えているという現状にあって、私達は安全安心を確保した上で持続可能な社会の構築を目指さねばなりません。まずは喫緊の課題と中長期的に考えないといけない課題とを区分して考えるとわかりやすいでしょう。
わが国のインフラの老朽化は現在大きな課題となっています。その老朽化したインフラの中で大災害を迎えるということですから、まずは災害への対応のためにインフラの整備が欠かせません。災害対応施策とインフラの整備とのバランスが非常に重要だと考えております。中長期的には、人口減少時代に直面していますので、人が減る中でインフラの維持管理をどういう風にするべきかという基本的考え方を確立することが大切です。特に2040年には全国の市町村の50%は消滅する、2050年には市町村の60%で人口が半減して20%は無人になるとまで言われていますので、これまでとは様子の異なる国土管理施策が必要になると考えています。
このような社会構造の脆弱化に鑑みますと、緩和策とともに適応策(アダプテーション)の推進が極めて重要です。
大塚(インタビューアー) 東日本大震災をはじめ過去の災害で、色々なことが知見として得られたと思います。災害対応の観点から、勝見先生が重要だと考えるポイントはどのようなものでしょうか。
勝見教授
やはり大事なのは人と現場でしょう。誰かがやらないと何も進まないので。人と現場というのは事象や災害にかかわらずどんな場面でも必要ですが、特にこういう災害の場合これまでないような状況に陥るわけですよね。これまで見なかったような被害、量、種類、環境、そういうものを克服していかなければならないということで、それぞれ持ち場にいらっしゃった方の従来の仕事のやり方だけでは物事を解決できない。やはり人と人とがどういうものを持ち寄ってやるのかということが大事なのかなと思います。
あとは、こういうことをやる時は大きな方針を決めるということがもちろん大事で、それがないとどちらへ進めばいいのかわからないということになってしまいます。大きい方針を決める場合でも現場のことを知っておかなければなりませんが、現場のことを知りすぎると、判断に迷われることや現場をちゃんと進めなければならないという思いから方針決定に注力するのではない、ということになることも考えられます。一人で決めるということではなく、現場をちゃんと知っている人たち同士でいろいろと紡ぎあって物を進めていく、形成していくということが大事なんだろうと、今、3.11を振り返ってそういうことを強く思います。
大塚(インタビューアー)これまで先生には災害現場に来てもらい、ご意見を頂くことがありました。先生のような客観視的に現場を見てもらうことで、全体最適化につながる。そんなご助言をいただけたのではないかと思います。
大塚(インタビューアー) 今後起こりうる災害で、事前準備について勝見先生はどうお考えになりますか。
勝見教授 3.11の時も、それまではこんなことが起こるとは思っていませんでした。(以降もいろんな災害が起こっているが)もっと昔を見れば実は、それ以上の規模の災害も起こっていました。したがって、我々は、過去に起こったことをきちんと知った上で未来を創造していかなければならないというのが一点ですね。昔、九州で阿蘇山が大噴火して、周りはほとんど壊滅したそうですが、そういう災害が起こるともうダメですよね。なので、何ができるかと言ったら、我々への悪影響を全て無くすのは多分無理なので、地球の恵みに感謝して、うまくやりくりしながら人類の命を繋いでいくしかないのかなと思います。
この10年間で、西日本豪雨とか北海道の地震とかいろんな災害がありました。そういう災害が繰り返されるということで、何か起きたら対応するということと、予防的なものを増やしていってできるだけ強靭にしておく、被害を受けたら周りでカバーする。周りというのは地理的な周りもありますし、組織的な周りと言う意味、いろんな意味があると思いますけど、それもやはり現場と、人間同士と考えています。ちょっと抽象的ですが。
大塚(インタビューアー) 今回、この記録誌をつくるにあたって大きく2つのテーマ、過去に対しては『何を経験し、何を感じたか』、未来については『何を遺し、何を創るのか』を取り上げました。 これについてお話しいただけますでしょうか。
勝見教授 今4つおっしゃった「経験する」、「感じる」、「遺す」、「創る」の中で「感じる」という言葉が入っているのは象徴的だなと感じました。「感じる」というのは、感じ方は人それぞれ違います。強制することはできないもので、それを大事なキャッチフレーズの言葉として入れてらっしゃるのは、私には響きました。その時に感じるというものがあって一人ひとりが、自分はこう感じる、こうすればよかった、自分なりの評価事項それから受け止めがあるということがとても大事だなと思っています。